AMGをはじめとして、W124の6.0リッターモデルが何種類か存在していることは、エンスーの皆様ならご存知の通りです。
そして、それらの排気量アップされた“チューニングカー”の中でベストバランスを持つ車はどれかと問われたならば、このハグマンは最有力候補となることでしょう。
セクト・コーポレーションによって2000年に国内に持ち込まれたこの車両は、ドイツのチューナーであるハグマンによってコンプリートチューンされたW124型E500であり、ベース車両は1994年式といわれています。
メルセデスのレース部門を出身とするユルゲン・ハグマン氏が立ち上げたこの新興チューナーは、その成り立ち通りメルセデスベースのレーシングカー製作を得意としており、歴史は浅いながらも技術力での評価は世界中で知られています。
しかし、コンプリート車両の製作は非常に少なく、さらに日本仕様としてアレンジされているこの車両はおそらく世界でたった1台という超希少車です。
“最良か、無か”そう謳っていた時代のメルセデスをこよなく愛されているオーナー様は、複数のW124を所有するという硬派なエンスーさんでいらっしゃいます。
車として高い完成度を擁していたのはこの時代までであり、だからこそ当時最強といえる6.0リッターモデルが欲しかったそうです。
各チューナーの6.0リッターモデルを乗り比べたうえでハグマンの素晴らしさを実感し、ショーカーとして専門店に飾られていたものを購入されたのが2001年のことになります。
最強のセダンであり、とても希少性が高いことから数々の取材を受け、そのたびにハグマンの完成度の高さを再認識されたそうです。
他のチューナーとは違う出力特性のエンジン、連続走行や真夏の首都高でも音を上げない耐久性、しっかり踏ん張りを利かせつつも柔らかい足など、ハグマンならではというところがとても魅力的であるとのこと。
しかし、出張の多いオーナー様は愛車に乗る機会が少なく、置かれたままのハグマンを眺めるのが辛くなってしまったそうです。
しっかり走らせて、持てるポテンシャルを発揮させてくれる人が見つかったなら、その方にお譲りしたいとのことで掲載となりました。
◆◆外装◆◆
ノーマルよりも明らかに下げられている車高や、オプション設定されていた18インチのホイールが装着されたスタイリングからは、チューンドカーの雰囲気を感じます。
とはいえ大げさなスポイラーなどは一切無く、中身を重視しているハグマンらしさが十分に感じられます。
特にホイールの内側に潜む強化されたブレーキや、シブいテールエンドながら腹下ではストレートに近づけられたエキゾーストなど、覗き込まなければ分からない部分をチラリと見せる演出がそそりますね。
ボディのコンディションは上々で、大きな傷や凹みは見当たりませんし、艶も十分です。
眼を凝らして見ていけば、飛び石の傷や修正されたドアエッヂなどが見受けられ、ホイールは4本ともブレーキダストが染み付いてしまっています。
また、左前のホイールは走行中にセンターのオーナメントが外れてしまったそうです。
それにしても、低い車高や張り出したフェンダーなどから只者ではないオーラが漂っていますね。
◆◆内装◆◆
320km/hまで刻まれたメーターパネルが、ノーマルとの違いを訴えています。
また、良く見れば左側のメーターがノーマルとは異なり、油温計が追加されています。
10W-60という非常に硬いオイルを指定されていることもあり、オーナー様はこの油温計を暖気終了の目安に使われているそうです。
その他の部分は多くがノーマルのE500と共通ですが、ハグマンを主張するポイントとしてASR(横滑り防止機能)のオフスイッチが備わっています。
腕に自信のある方ならば、一度は押してみたい?スイッチでしょう。
まだまだこれからという走行距離ですし、内装のコンディションは外装以上に良いものです。
シートのレザーに少しシワが出始めたところといえば伝わるでしょうか?
リアシートのコンソール部分を飾るウッドには割れが見受けられましたが、フロントのコンソールやインパネ周りのウッドに割れはありませんでした。
◆◆機関◆◆
5.0リッターのM119型エンジンをサイズアップさせる手法は他のチューナーと同様のものですが、トルクを重視した出力特性を狙って仕上げられています。
ピークパワーは400馬力ほどと近頃のスーパーな車と比べると控えめ(それでも十分すぎるほど)ですが、トルクは61.2kg-mというトラックのような数値を叩き出しています。
そしてこの高出力エンジンを守るため、冷却系にも力を入れられています。
ここが他のチューナーの6.0リッターモデルとは大きく異なるポイントであり、高速での連続走行から真夏の渋滞までどんな状況でも乗れるようにと配慮されています。
チューニングは足回りにも及び、ショックアブソーバー,サスペンションコイル,スタビライザーの一式がオリジナルの仕様に変更されています。
比較的柔らかいといわれるハグマンの足回りですから、いかにもチューニングカーというような硬さはありません。
また、強力なエンジンに対抗するためにブレーキの強化もキッチリと行なわれています。
外径322oという大きなフロントローターを挟むのは、ブレンボ製の4ピストンキャリパーという、まるでスポーツカーのような仕様です。
◆◆同乗走行◆◆
オーナー様のご厚意により、助手席での同乗走行をさせていただきました。
まず、始動時のエキゾーストノートが只者ではありません。
メルセデスがこんな音を出しているの?と、疑うほどの咆哮とともにエンジンが始動しました。
とはいえアイドル付近での音量は控えめで、ドロドロと唸っているようです。
住宅街のレンガ敷きや細かい道を走り出しますが、意外なほどゴツゴツ感は無くしっとりした乗り心地は普段使いでも全く苦にならないレベルです。
そして、せっかくのチューニングカーですから、都内の渋滞を避ける為に高速道路も走行していただきました。
それなりの速度からの加速にもかかわらずズシっと来る加速感、路面のギャップをうまく吸収しながら前後でバランスの良いロール、高速域からもカチッと利くブレーキなど、やっとポテンシャルの片鱗が感じられました。
車体は終始安定し、スピード感が100km/hほど低いように感じられるほどです。
また、中回転域から上でのエキゾーストノートは乾いた高音で心地よく、ついついアクセルを踏み込んでしまいそうでした。
◆◆取材を終えて◆◆
この車、凶暴です。
見た目からもそれは分かりますが、迂闊に踏み込めないアクセルには心が躍りします。
そして、このパワフルなエンジンと上手に付き合えば、この上なく安定した走りに驚くことでしょう。
また、良くできた車だけにメンテナンスも神経質になる必要はないそうで、これまでも定期的な整備+αで済んでいるそうです。
希少なお車ですから、お探しの方はお早めにどうぞ。
なお、リサイクル券\16,210の全額負担と、自動車税\88,000の月割り負担をお願いいたします。
また、現在も使用されているため、走行距離が若干伸びることがあります。
保管場所 東京都
【更新2011年3月24日】
オーナーさんのご厚意により、こちらの車両の売却がなされた場合には、50万円が、東北関東大震災の被災地への義援金として寄付されます。