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斉藤円華の横入り自動車ライター血風録・第19回
 
『天ぷら油で走る! メルセデス』
 
 
−どこまで上がる? 燃料価格−
 
 最近どんどんつり上がる、ガソリンや軽油などの自動車燃料の価格。
 いつもの感覚で満タンにしたら予想外の金額になってしまい、思わず面食らった方もきっと多いはず。
 本連載第7回で自動車評論家の舘内端氏が語っていたように(※1)、「ガソリン1リッター=200円」の時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。
 「石油の乏しい時代」の幕開けである。
 
−食用油仕様のメルセデス−
 そんな折、雑誌『ビーパル』で「天ぷら油を自宅で給油。天ぷらカー登場!」という記事を読み、天ぷら油をダイレクトで燃料に使える車があることを知った。一体どんなクルマなのか。持ち主の方をさっそく訪ねた。
 池尻大橋に程近い、二階建てアパートの一階倉庫部分を改装したオフィス「スマイルスタジオ」。ここを拠点にパーマカルチャー(持続可能な農的くらし)やロハスプロジェクトの企画運営を行うNPO「ビーグッドカフェ」の代表理事、シキタ純(きよし)さん。この人が、天ぷら油で走るメルセデスの持ち主だ。




 社会の環境意識の高まりにともない、多忙を極めるシキタさん。貴重な時間をさいて取材に応じて下さった。
 「では、早速クルマをみてみましょう」
 駐車場に案内されると、深緑のメルセデスが停まっていた。W123、300TDのステーションワゴンだ。外見からは天ぷら油仕様だということは全く分からない。
 ボンネットを開けてもらった。
 「このタイプのメルセデスはエンジンルームに空きスペースがあって、天ぷら油を使えるようにするためのアタッチメントを取り付けることが可能なんです。今のクルマは補機で埋め尽くされていますから、難しいかもしれませんね」
 そのアタッチメントとは、独エルスベット社が供給する「1-tank system」。廃食油(使用済み食用油。SVO=Straight Vegetable Oilとも)をディーゼル車燃料に使う場合、始動に軽油を使い暖機後に廃食油を供給する「2槽式」と、最初から廃食油のみの「1槽式」とがあるが、これは市販されている唯一の1槽式の装置だ。大フィルター2個と燃料ポンプ直前のフィルター、燃料を暖める加温器、座席付近に設けられるコントローラー、その他インジェクターなどからなる。

 わかりにくいが、画面中央燃料ポンプ(配管がいくつも伸びている部品)右横にある丸い部品がフィルター。その上の四角い箱状の部品が加温器。
 ライト後ろにもう一つのフィルター。
 これもわかりにくくてすみません。中央、燃料ポンプ直前のフィルター。
 センターコンソールにあるコントローラー。
 コントローラーを拡大。外気温などに応じて設定可能。
 実際に助手席に同乗させてもらった。始動は一発、何から何まで全く普通の乗用車。違和感はない。
 ――天ぷら油を使うことで、トラブルはありませんでしたか?
 「やっぱり何度かはフィルターが目詰まりを起こして、高速でエンストしたりしました。ですので、フィルターをアルコールで洗う救急キットは常に積んでますね」
 ――軽油と比較してパワーが落ちる、なんて聞きますが。
 「もともとパワーの出るクルマじゃないので(笑)、気にしたことはないですね。高速を巡航するには全く不足はありません」
 ――気になる燃費は。
 「平均して6km/lくらいです。これは軽油と変わりません」
 ――天ぷら油はどうやって集めていますか?
 「友人知人から分けてもらったりしてますが、ろ紙で濾すのに時間がかかるので、さすがに普段はBDF(廃食油を改質したディーゼル燃料)を入れてます。染谷商店(※2)が配達してくれるのですが、リッターあたりの値段が常に軽油の市価より10円くらい安いんですよ」
 かかった費用はレストア代とあわせて約250万円。この内改造費用は25万円ほど。
 けれども、都市部ではディーゼル車はNOx・PM規制によって車検登録が制限されている。その点について伺うと、シキタさんは車検証を取り出しながら「詳しいことはわかりませんが、都市部でも車検は通せるみたいです」と話してくれた。
 車検証を拝見させていただいた。備考欄に「有効期限満了日以降を超えてNOx・PM対策地域内に使用の本拠を置くことができません」とある。つまり、現状では次回以降の車検継続はできないことになる。

 だが、ネットで調べてみると、公共の検査機関でNOx・PMを測定して、規制値をクリアして車検を継続できた事例もあるようだ(※3)。
 この件について環境省環境管理局自動車環境対策課に問い合わせると、「規制値と自治体ごとの条例を満たしていれば、年式等を問わず車検継続は可能」(担当者談)とのことだった。
 
−天ぷら油は2度使う!−
 イベントプロデューサーだったシキタさんが環境問題を強く意識したのが98年。このままではいけない、と月に一度コーヒー片手に環境などを語りあうイベント「ビーグッドカフェ」を立ち上げた。現在はNPO法人化し、活動も多岐にわたる。
 それまでメルセデス300E、オペル・ベクトラなどを乗り継いできたが、NPOを通じて知り合った、パーマカルチャーを実践する友人に天ぷら油カーを紹介してもらった。
 シキタさんは語る。
 「廃食油は一説には全国で年に47万トンもあって、家庭ではほとんど固めて捨てられています。天ぷら油カーなら、捨てられる運命にあった油を使って走らせることが出来るんです。料理に使って、また使う。ステキなことだと思いませんか?
 ただ、やっぱりトラブルはつきもので(笑)、メーカーもなかなか手を出せない。なので、まずは愛好家が率先して天ぷら油仕様に改造してみてはどうでしょうか。私もSVO仲間を増やしたいですね!」
 捨てられていたものを利用するエコの流れは、原油高の昨今、クルマにも拡がってきた。その担い手は、実は車が大好きなエンスーなのかもしれない。
 「でもね、年取ったらACコブラに乗ってみたいですね! 今相場でいくらくらいするんですか?」
 シキタさんもまた、エンスーなのであった。

 
※ 1・・・連載第7回を参照。
※ 2・・・東京都墨田区内のBDF業者。http://www.vdf.co.jp/
※ 3・・・「バイオディーゼル燃料によるディーゼル乗用車 NOx・PM規制適合へのチャレンジ」
http://journeytoforever.org/jp/biodiesel_wada.html

シキタ純さんが理事を務めるNPO「ビーグッドカフェ」ウェブサイト・SVOのページ
http://www.begoodcafe.com/projects.php?project=10
 

[執筆者プロフィール]
斉藤 円華(さいとう・まどか)…横入り自動車ライター。今回からタイトルを少し変えました。
長年つとめた会社をやめて、いよいよライター専業(生きていけるのか?)。応援よろしく!。
※ブログ “mdk-on-line” http://mdk-on-line.jugem.jp/
※ mixi(ミクシィ)にもプロフィールがあります。

【次回予告】
 好評シリーズ「エンスーのガレージを訪ねて」。次回は有名人のガレージを直撃取材?!