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斉藤円華の「週末自動車ライター事始め」・第17回
 
「グライダー初体験! いざ、板倉滑空場へ」
 
 
 ドライブの楽しい春だ。観光地もいいけれど、趣向を変えてグライダー(滑空機)に乗りにいく、なんてのはどうだろうか。
 『JAF MATE』の下野康史氏の連載記事「やっぱり乗り物が面白い」に、グライダー体験試乗の様子が出ていた(2007年1・2月合併号)。
 飛行免許を持たない人でも、グライダーを楽しめるという。東京から一時間、群馬県の板倉滑空場を目指した。
 
−空気を切る音だけが−
 
 渡良瀬川の河川敷に広がる、草地の滑走路。板倉滑空場を運営しているのは「社団法人 日本グライダークラブ」だ。
菜の花の咲き乱れる土手をはさんで格納庫があり、クラブ所有のグライダーなどが保管されている。車に牽引されてグライダーが土手を越えていく。ワンボックス車を改造した移動型のピスト(待機所)には吹流しと風力計、航空無線が設置されている。一般の飛行場でいう管制塔の役割を果たすのだ。

 土手を移動するグライダー。       





 移動式ピスト。
 10時半、当日の責任者である秋山さんを囲んでブリーフィング(打ち合わせ)が終わると、いよいよフライト開始だ。
 ブリーフィングの様子。
  責任者の秋山さん。元JALのパイロット、飛行歴36年のベテラン。
 グライダーは動力をもたないので、飛行機がワイヤを使って引っぱり上げる。所定の高度に達したら、グライダー側でフックを解除して滑空にうつる。上昇気流をつかめば、長時間の滞空も可能だ。
 当日の牽引機は「スーパーディモラ」というモーターグライダー。水平対向4気筒、1.1リッター、ターボ装備で115馬力を発生する。
 パイロットは飛行歴20年の篠崎さん。「モーターグライダーは高度を稼いだら、エンジンを止めて滑空飛行が出来るんです。世界一周の記録もあるんですよ」と語る。
  チェコ製のブラニク L-23。全金属製。  今回私が搭乗するグローブ 103 Twin II。二人乗り、FRP製。
 燃料車はスバル・サンバー。チェッカー模様も目立つが、ドア下の鳥居マークが気になる。
 滑空が始まる。曳航機から曳航索が伸ばされ、グライダーの牽引フックに装着される。途中で脱落しないように、点検は念入りに行われる。エンジン音がひときわ高く響くと滑走開始だ。ゆっくり滑走して、ふわりと離陸する。のんびりした光景だ。。
 曳航索がフックにかかっているか、念入りに確認。
  離陸開始。  ゆっくりと上昇していく。
  先に滑空していたグライダーが着陸コースに入ってきた。しゅうううと空気を切る音だけさせて降りてくる。エアブレーキが開いていることに注目。
 これもモーターグライダー。エンジン停止時にエンジンを機体に格納できるタイプ。
  2サイクル2気筒。離陸・上昇の時だけ使用するので、巡航が目的の一般的なエンジンより簡素なつくり。
 
−いよいよ空へ−
 
 私の搭乗の番が回ってきた。パイロットは鈴木重雄さん。先出の秋山さんとは同期で、JALではジャンボ機の操縦もしていたと話す鈴木さん。「空の男」という言葉がぴったりとくる、温和な方だ。
 鈴木重雄さん。「グライダーは自然相手。技量と気象を読む力が求められるスポーツです」
 乗り込む前、背中に緊急用のパラシュートを装着する。万が一の場合、自分で機内から脱出して、パラシュートを開かなければいけない。
 「1で手を広げて、2で手元を確認して、3でグリップを握り、よんっ!で思い切り引っぱる。そうすると開きます」
 あくまで穏やかに説明する鈴木さん。私も平静を装ってはいるが、内心「もしも機外に放り出されたら、ちゃんと操作できるだろうか・・・」ととても不安になってくる。
 シートに座り、体を4点式のベルトで固定すると、わなわなとひざが笑い出した。恐怖心はそんなに感じていないのに、本能的に体が反応している感じだ。
 コクピット(操縦席)の様子。計器は一番上にコンパス、左上が速度計、右上が昇降計、左下が高度計。操縦桿のてっぺんのスイッチは無線通話用。押してもミサイルとかは発射されない。  このレバーはエアブレーキ。着陸時に減速用に使う。
 キャノピー(風防)に貼られた毛糸。偏流(機首方向に対して横から流れる気流)を確認する。
 いよいよ滑走開始だ。曳航機が動き出し、曳航索がピンと張るとがくん、と衝撃を感じ、ざざざ・・・と車輪が草を蹴っていく。さらに加速し、機体が地面を離れると今度はしゃあああと風を切る音が機内に充満する。
 分解したグライダーを運ぶトレーラーが見える。
 ゆっくりと上昇していく。
 関東平野が広がる。






 地球が丸く見える? 渡良瀬川が蛇行する。
 高度2000フィート(約600メートル)まで上昇すると、グライダーはフックを解除して滑空に入る。曳航機(中央)が離脱して先に滑空場に戻っていく。
 東北自動車道が見える。
 視界の広いキャノピーのおかげで、見晴らしは最高だ。これですっきりと晴れて、高度がさらに高ければ、もっと楽しいだろうに・・・と思った。離陸前の恐怖心はどこかに消えていた。
 後席の鈴木さんが「操縦桿を握ってみますか」と私にすすめる。私なんかが操縦していいのかと思いつつ握ってみる。少し引くだけで機首が上がり、押すと下がる。挙動が敏感だ。落としたらどうしよう、と恐怖心がよみがえってきた。機は上昇気流を捉えられずに、降下に移る。
 現在、ゆっくり降下中。計器を読み取ってみよう。
速度計:45ノット=約83km/h。
昇降計:マイナス3ノット=毎秒約1.5メートルで降下中。
高度計:1380フィート=約420メートル。
 滑走路が見えてきた。
 ランディングアプローチ中。
 22分間の短い飛行だったが、無事に着陸。筆者の顔にも安堵の色が。
 板倉滑空場長、吉瀬(きっせ)はるかさん。73歳にして現役のグライダーパイロットだ。20歳の時から飛び続けているという。「グライダーの操縦は、周りにまんべんなく気を配れるかが大事。一つにこだわるとうまく行かないのです」。
 グライダーは面白い。万一の危険は確かにあるが、どんな飛行機でも体験できない素晴らしい視界は、日常を忘れさせるのに十分だ。これでライセンスがあれば自由に空を飛べる。ただし、取得には時間と数十万円の出費が必要だ。高いか、安いか・・・。
 ともあれ、気になったあなた。まずは飛んでみよう。板倉滑空場へは東京から東北道を使えば約1時間半と手頃な近さだ。大空へのライセンスは、案外手に届くところにあるかも?
 
・ 日本グライダークラブでは土日祝日、一般向けに体験搭乗を行っている。費用は20分のフライトで11,500円。 http://www.glider.jp/
 
 

[執筆者プロフィール]
斉藤 円華(さいとう・まどか)…週末自動車ライター。春の悩みといえば花粉症ですが、今年はそんなにきつくなかった。外食を減らして麦ご飯など、ロハスな自炊生活をしているからでしょうか? 何にせよ、春を楽しめるのは二重マル!です。
※ブログ “mdk-on-line” http://mdk-on-line.jugem.jp/
※ mixi(ミクシィ)にもプロフィールがあります。どうぞご覧下さい。

【次回予告】
 梅雨を前にして、エンスー車イベントも目白押し! さて、どこに出没しましょうか・・・?