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斉藤円華の「週末自動車ライター事始め」・第13回
 
シリーズ「エンスーのガレージを訪ねて」 〜その2・桜井重雄さんの場合〜
 
エンスーな人々のガレージを訪ねるこの企画。2回目の今回は、連載11回のSHCCミーティングでインタビューした、都内在住の桜井重雄さんのガレージを紹介する。
 
 
−D1(ディーワン)って何?−
 
   練馬区のとある住宅街。ここに、工務店を営む桜井さんのガレージがある。イタリアを意識したというガレージには、重雄さんがジムカーナで操っていたスズキ・フロンテを始め、180SX、S800などレース仕様の車両がズラリと鎮座する。
 エンスーなクルマ趣味とはやや趣を異にするが、やはり180SXのただならぬ雰囲気に視線が釘付けとなる。
 桜井さんのご子息のヒロ桜井さんは、「このクルマでD1(ディーワン)に参戦しています」と語る。
 ――D1って、どういうレースなんですか?
 「D1は最近始まった、サーキットでドリフトの腕を競う競技です。速さだけでなく、ドリフト走行のテクニックや車両のきれいさが採点対象になる。そういう点ではフィギュアスケートみたいなものです」
 そんなレースがあるんだ。恥ずかしながら、初めて知った。
 「180SXはタダで譲り受けたのですが、2度オールペンしたりして、結構な費用がかかってしまいました。やはり最初からいいクルマを買うべきでしたね」
 と笑うヒロさん。とはいえ、さすがドレスアップに力を入れているだけのことはあって、ピカピカの仕上がりだ。「D1に出るには、ライセンスを取らなければいけません。いい成績を収めてライセンスを取得することが目標です」

 車内も見せてもらった。「センターコンソールはFRPで自作しました」

 
−怪物エスハチ−
 


 ただならぬ雰囲気という点では、オーバーフェンダーが左右に張り出したこのホンダS800だって負けていない。異様に盛り上がったボンネット。およそエスハチらしからぬ、ぶっといレーシングタイヤ。一体どんなチューニングがなされているというのか。重雄さんに訊いてみた。
 「このクルマにはロータリーエンジンが載っています。マツダRX−7の2代目(FC3S)に使われていた13B型ですね。ざっと280馬力は出ていると思います」
 ロータリーエンジン、280馬力! もとのスペック(70馬力)の4倍だ。聞けば、車重は600キロそこそこだという。タイヤが太いのもうなずける。

 この迫力。エスハチではなくて、これはランチア・ストラトスだ!?
 主にジムカーナに使用していたという重雄さん。このクルマにはパワステがついているが、「パワステが無いとハンドルを振り切れません」
 そしておもむろにリアゲートを開けて説明する。「前のラジエーターだけでは冷却が不十分なので、後ろにもラジエーターが付いているんです」

 余りの改造の凄さに、私は圧倒されてただ「へーっ」と聞いているのみだ。エスハチの面影を残してはいるけれど、これは何か別の乗り物ではないか、という気さえする。
 ボンネットを開けたところ。
 コンパクトに収まった13B。
 10年前に購入した時にはダートトライアル(非舗装路のコースで速さを競うレース)仕様だったという。FRPでリアフェンダーを自作するなどして、今の状態にした。合計で600万円ほどかかっている。
 それにしても、桜井さん親子に共通しているのはFRPで必要なものを自分でつくってしまうことだ。自分で出来るものなのか。
 「雑誌『オールドタイマー』にも寄稿している濱素紀(はま・もとのり)さんに製作のノウハウを教えてもらっています」
 ――ちなみに足回りは…、チェーン駆動ということはないですよね?
 「まさか(笑)。ファミリア系のものを移植しています」
 
−趣味の殿堂−
 
 モンスターエスハチの奥に目をやると、レーシングカーが。ジェット機の機体のようなFRPボディが端正なこの車は「カプリシャス CR−01」。

 星野一義氏のレーシングカーの整備を担当していた鴨下さんという方が設計・製作したという。「カッコは誰でも真似できるが、走らせたときに技術で差が出ます」。筑波サーキットを1分5秒台で走る実力を誇った。
 スズキ・フロンテ用2サイクル3気筒、360CCのエンジンを前後逆に搭載する。従ってエンジンも逆回転。チャンバー末端に付いているタイコ状のものは消音器。
 風変わりなカスタムバイク。元々はバイクショップのショーモデルとして製作されたが、オリジナルは何だか分かりますか? ネオクラシックな感じがいいですね。
 車やバイクだけではない。ガレージのそこかしこに、オーナーのこだわりと遊び心が見え隠れする。
 扉の紋章にあしらっているのは、ロータスのエンジンバルブ。
ドアノブはピストンだ。

ヘッドカバーが表札代わり?

 更にここには地下ガレージまである。案内していただいた。

  ロータス・ヨーロッパ。角目仕様は桜井さんのオリジナル。「デ・トマソ・パンテーラGT2を意識しました」
 ロータス・ヨーロッパ、桜井さん親子にとっては因縁深い車だ。その昔、神宮外苑のシグナル・レースで、ハコスカGTRに乗っていた重雄さんは白のヨーロッパに呆気なく抜きさられてしまう。悔しかった重雄さんにその事を聞かされて育ったヒロさんは、いつか自分もヨーロッパに乗りたいと思うようになる。そして、念願かなって購入したヨーロッパをフルレストアに出した先が、かつて父を抜きさったヨーロッパのオーナーの店だった、というのだ。

 桜井さん親子の名前は、ラジコンボート競技の世界ではつとに有名だ。地下ガレージには工房も併設されている。


 これも競技艇。『スターウォーズ エピソード1』にでも出てきそうな、前衛的なフォルムだ。
 ガレージを引いて見るとこんな感じ。
 ガレージは自宅と工務店も兼ねている。オフィスにはいくつもの競技で獲得したトロフィーが鎮座する。
 ガレージを拝見した後で、桜井さんはラウンジルームに招き入れてくれた。果たせるかな、そこはクルマと趣味へのこだわりの詰まった「夢の空間」だった。
 壁には一面、レーシングカーの写真やイラストが飾られている。
 これなどは、伝説的レーサー、スターリング・モス氏の直筆サインが(中央)。「ラ・フェスタ・ミッレミリア」で訪日した際にいただいたもの。

池沢さとし氏のイラスト。ご近所なのだそう。
 ラジコンボートで、親子で優勝した時の雑誌記事。凄すぎる。
 サイドテーブルは往年のレーシングカー、日産R380のタイヤをあしらっている。その上にあるのはロータスをかたどった灰皿。
 桜井さん親子。右側がヒロさん。レース一家の肖像だ。背後のディスプレイの棚にはやはり数え切れないトロフィーが。
 ――レースの遺伝子が、まさに父から子へ継承されているわけですね。
 「でもテクニックとか教えてくれないですよ。見て盗めって感じですね」(ヒロさん)
 「まあ、言葉で教えられるものではありませんからね。息子がD1で活躍するのを楽しみにしています」(重雄さん)
 親子がクルマやボートで真剣に遊び、互いに意識し、競い合っている。レベルとこだわりの凄さに圧倒されながらも、そこに素敵な家族の風景もまた、見る思いがした。
 

[執筆者プロフィール]
斉藤 円華(さいとう・まどか)…週末自動車ライター。この秋、都内を引っ越しました。新しい棲家は、畑や林が点在するところ。新天地での生活をバネに、新たな飛躍を模索中?!
※ブログ “mdk-on-line” http://mdk-on-line.jugem.jp/
※ mixi(ミクシィ)にもプロフィールがあります。どうぞご覧下さい。

【次回予告】
 EV(電気自動車)の祭典として、筑波サーキットで開催される「第12回日本EVフェスティバル」を取材予定。お楽しみに!