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斉藤円華の「週末自動車ライター事始め」・第6回
 
「鈑金作業後編 塗料調合ミス…でも、何とかなる?!」
 
 
−雪に邪魔された…!−
 連載第4回で、わが117クーペが年末年始を利用して鈑金作業に入ったことについて述べた。パテ盛り作業までの様子をお伝えした訳だが、今回は1月22日の本塗装と、その後の作業について報告する。
 本塗装前日、東京は雪に見舞われた。安野鈑金の塗装ブースを予約していた私は気をもんでいた。「(安野鈑金のある)町田は23区より寒いだろうから、道路に雪が残っているのではないか…」。117は夏タイヤだ。鈑金をしに行って事故をおこしたらシャレにならない。
 翌日、安野鈑金に電話。「雪は残っていませんよ」、この時朝9時。自宅から町田までは約2時間。夕方5時まで借りているが、この分では延長料金がかかりそうだ。予約キャンセルも考えたが、全体の工程をこれ以上伸ばしたくなかったので、決行することにした。雪が判断を遅らせた形となった。
 
−時間との戦い−
 11時に安野鈑金に到着。作業準備に入る。パテ研ぎ面を見て、「もっとデコボコしているかと思いましたけれど、いい感じじゃないですか」と安野さん。「でも5時までに間に合いますか? 大急ぎでやらないと厳しいですよ」という言葉にプレッシャーを感じつつも、何とか間に合わせようと気を取り直す。
 
ブースに入庫。壁の時計は11時半をさしている。
最初はマスキングだ。スプレーガンをエアーコンプレッサーにつないでの塗装は、塗料が広く飛び散る。塗装面以外は車体全体を新聞紙とマスキングテープをつかって覆うのだ。
マスキング開始。
ほとんど貼り終えた。同じアングルで。
前から見るとこんな感じ。
 
 今回塗装するのは、ボンネット、左右リアフェンダー、リアアンダーパネル。結構広い面積だ。うまく塗れるだろうか。
 塗料は吹き付け直前に調合する。基剤(アクリル塗料)と硬化剤の比率は4:1。出来たものを希釈用シンナーで薄めて塗布するのだ。慣れない手つきながら材料をまぜて、いよいよ吹き付け開始だ。
 
塗装作業の様子を安野さんに撮影してもらった。真剣そのもの。
ボディの下はかがみこんで塗装する。
 
 塗装の要領はこうだ。塗装面からからスプレーガンを50cmくらい離し、吹き付け幅の半分ずつずらしながら横に吹いていく。書くと単純だが、実際にやってみるとこれが難しい。安野さんに見本をみせてもらう。スムーズにムラなく吹いていく。だが私がやると真似しているつもりでもムラができてしまう。
 
ボンネットを吹いている途中。ムラができているのがわかる。
塗装で厄介なのはタレだ。リアフェンダーでタレが出てしまった。ハロゲンランプで乾燥中。こののち、ペーパーを当てて修正する。
 
−調合を間違えた!−
 大分塗り進んだはずだが、なぜか塗装面が梨地のようになっている。
 私はふと、塗料の缶などが置いてあるところに目を向ける。
「あの…、シンナーはパテ作業のときのを使ってるのですが、大丈夫ですよね?」
「え〜〜〜っ!! 斉藤さん、シンナーは塗料専用のを使わなかったんですか?!」
 そうなのだ。今回安野さんに塗料一式を準備してもらったのだが、塗装で使うシンナーは専用のものがあるのである。にもかかわらず、生来の貧乏性なのか、私はパテ作業の時に大量に使い残した洗浄用のシンナーを、わざわざ自宅から持参して、間違って使ってしまったのだ。
 「専用のものでないとなると…、これは時間が経つとひび割れがでるかもしれませんねえ」と安野さん。急いでいたとはいえ、材料の調合を間違えてしまうとは。私は半ば放心してしまった。基剤がほんの少しだけ残っていたので、ともかくその分だけは本来の調合で塗布した。だが、表面のざらざらとした質感は変わらない。
 
本来ならつやが出ているべき塗装面。
 
 「まあ、初めての塗装作業ですから。失敗はつきものですよ。クリアーを吹けば何とかなるかもしれません。とりあえず一息つきましょう」。落ち込む私を見かねて、安野さんは事務所でコーヒーをすすめてくれた。
 焦燥感がやわらぎ、気がつくと外は桶に張った水に氷が張るくらい冷え込んできている。失敗は失敗だが、ここであきらめたら今までの苦労は全て無駄になってしまう。だめでいいから、ともかく最後までやってみようと思い直す。安野さんの心遣いに、本当に頭が下がる思いがした。
 30分ほどしてから、クリアー塗料の吹き付け開始。クリアー塗料に硬化剤を1:1で混ぜ、さらに等量のシンナーで希釈する。梨地をクリアーで平らにする位のいきおいで、厚めに吹く。タレが出てしまうが、乾燥してからペーパーを当てられるので気にせず吹く。
 
クリアーを吹いた直後。多少つやが出てきた。
予定の5時を大幅にずれこんでしまった。
 
 何度か重ね塗りをして、ようやく作業終了! 時計は8時前を指していた。マスキングをはがし、ブース片付けを終えて安野鈑金をあとにしたのは、9時前のことだ。5時で作業を終えることを見越して予定を組んでいた安野さんのスケジュールを狂わせてしまった。申し訳ない気持ちで一杯だ。
 
−ゴールが見えた−
 乾燥に一月くらい置いてから、いよいよ仕上げに入る。まずはクリアーのタレの修正。1500番のペーパーを当てて表面をならしていく。だがなかなかうまくいかない。焦って一気にやるとまた失敗してしまうと思い、目立たなくなる程度で止めた。
 
幾筋ものクリアーのタレ。
台座にペーパーを巻いてタレを研いでいる。
 
 2月19日、お世話になったお礼を言いに安野さんのもとを訪れる。「ひび割れが出るかと思いましたが、大丈夫そうですね〜!」との言葉にほっとする。そして、工場の奥からバフマシーンを持ち出すと、塗装面を磨き始めた。二種類のコンパウンドで磨き分けると、見事なつやがあらわれた。
 
バフマシーンで塗装面を磨く安野さん。
奥(研磨後)と手前。つやにはっきりと差が!
 
 「ちゃんと磨けば、この位になりますよ。もう一月置いてから作業すれば、なかなかいい感じになるんじゃないですか」。一時はどうなるかと思った鈑金作業。なんとか、ゴールが見えてきた感じだ。
 「実は途中で投げ出す人が多いんですが、斉藤さんはよくあきらめずにやり遂げましたよ!」とは安野さん、何とも面映い言葉だ。ここまでたどり着いたのは安野さんの、そしてまた、拙い私の連載をいつも応援してくれる読者の皆さんのおかげである。この場を借りて深くお礼申し上げます。
※ここまでの費用…鈑金材料等          約2万円
         塗料およびブースレンタル料等 約6万円
         合 計            約8万円
 
笑顔の素敵な安野さん。作業中のアルファロメオとともに。

※安野鈑金ウェブサイト http://www1.odn.ne.jp/~cal45590/yasuno/
 

[執筆者プロフィール]
斉藤 円華(さいとう・まどか)…週末自動車ライター。117の磨き作業が完成したら、その折は旧車イベント等の機会を利用して、皆さんに見ていただきたく思います。
※ブログ “mdk-on-line” http://mdk-on-line.jugem.jp/
※ mixi(ミクシィ)にもプロフィールがあります。どうぞご覧下さい。

【次回予告】
雑誌「NAVI」「J's Tipo」などで健筆をふるう著名な自動車評論家であり、市民団体「日本EVクラブ」代表をつとめる舘内端(たてうち・ただし)さんにインタビュー。ガソリン価格高騰・地球温暖化のこんにち、エンスーの明日はどっちだ?! 次回「舘内端さんにきく これがエンスーの生きる道」をお楽しみに!