宇宙船をイメージする未来的なスタイリング、革新的なハイドロシステム、シトロエンを愛好者ならずとも、DSのアバンギャルドぶりには目を奪われます。 時代を先取りし過ぎたとも思わせる大胆なデザインと触れる度に感じる複雑なメカニズムは、当時のクルマに対する夢と理想を追求した表れであり、20年もの長きにわたりその圧倒的な存在感を示してきました。
初年度登録は75年、ほぼ最終年式と言ったところです。 85年に現オーナーさんのお父様が購入されました。 前オーナーは芸能プロダクションの方で、現在の名義はその息子さんですが、実質ツーオーナー目です。 平行輸入なのか、当時のディーラー車なのか、前オーナーが個人的に輸入した可能性もありますが、詳細は定かではありません。 例えばラジオを見ると日本の周波数の仕様になっている辺りは、やはり日本向けに輸入されたものであろう事がイメージできます。 記録簿が残っており距離については実走行であるとの事でした。
2年前に相当な金額をかけレストアを行い、現在も上々なコンディションを保っています。
購入後からそれほど乗らない状況があり、約5年もの間手を掛けなかった時期があったそうです。 当時の状態は内外装のヤレ、エンジンが掛からない状態でありました。 このまま朽ちてしまうのはとても忍びないとの思いからこのDSのレストアに踏み切ります。 やるならば徹底的にキレイにし、ショップには普段の使用にも応えるコンディションを作ってほしいと依頼をしました。 おおよそ1年半の歳月をかけ、このDSは蘇ります。 レストアの内容は傷んだ内外装とエンジン・足回りのほぼ全体に及び、掲げたコンセプトの通りの仕上がりを見せています。
残念ながらレストアの内容の明細は残されていませんが、金額的には400万円近くがつぎ込まれているそうです。
外装は元々黒でした。 それを好みに合わせ塗装しました。 この色は純正色ではないそうで、サンプルを持参し色を指定しています。 塗装は総はく離、傷みは修復しています。 現在もキレイな状態は保たれ、ツヤも申し分ありません。 トランク内もサビが出ていたそうですが、こちらもキレイに修復、各部にしっかりと手が入っている印象を受けました。
内装はシートと天井は張替え、傷みの少ない部分はそのまま活かしています。 独特な乗り心地をもたらすシートはオリジナルに近い色合いで、表面にはツヤも感じます。 たっぷりとしたと言う表現が似合う座り心地です。 ドア内張りはオリジナル、その他ダッシュやカーペットなど問題なし、非常にキレイに仕上がっています。 モールやウェザーストリップなどのゴム類も交換しています。
機関にももちろん手を入れました。
しばらく乗らない時期もあった事からエンジンはかからない状態だったそうです。 それを普段でも安心して乗れるようにメンテを施しています。 前述のように明細がないため詳細な内容をお伝えできませんが、インジェクションを中心に相当数のパーツが交換されているようです。 エンジンは現在も好調、不具合は全く感じないそうです。
燃料タンクもクリーニングをしています。
ハイドロの足回りも整備済みです。
LHM漏れの形跡もなし、車高の上下もスムースに行えます。
クーラーが備わります。 それなりに効くそうですが、ガスの補充は必須だそうです。
ヒーターはリアにも装備されています。
タイヤは約2年前に交換、山は充分にある交換は不要です。
パーツも買い揃えていたものが多数ありますので、こちらもお付け致します。 中には希少なものもあるようですが、その内容を挙げます。
ヘッドライトレンズ2セット・ヘッドガスケット・インジェクター・コンピューター・フロントブレーキキャリパー・ブレーキパッド・アキューム×4・セルモーター・ベルト・ワイパーブレード・ラジエターホース・ブーツ・オイルエレメント・ポイント・デスビ・サーモスタット×2・コンデンサー・タイミングチェーン・サーモトランスミッター・プラグコード・プラグ・バッテリーケーブル・ヘッドライトバルブ 他
ラジオは可動しますが、FMのみでAMは聞けないそうです。
リサイクル券と自動車税の月割りはご負担をお願い致します。
実車を目の当たりにすると、やはりその存在感に圧倒されます。 この存在感こそがレストアに踏み切った要因であると感じました。 レストアに賛同した親類の方はDSが高級ブティックの前に止めてあったのを見て、その情景に思いが沸き立ち、20数年来ガレージに眠っていたDSをもう一度完全な状態で味わってみようと決意を固めたと言うエピソードがあります。 蘇ったDSに乗せて頂きましたが、全てが柔らかい印象に包まれました。 ふかふかとしたソファーを思わせるシート、ハイドロならではの乗り心地、室内空間は明るく、大きく回りこんだフロントガラスは細いAピラーのおかげで、とても広い視界が展開されます。 エンジンも好調さを感じました。 シトロエンのエンジンは取りざたされる事が少ないですが、4気筒ならではのトルクのある特性で決して遅くはない事を付け加えておきます。 ミッションはセミオートマが多い中にあって希少な5速マニュアル、故障も少なく余計な気を遣わなくて済むのもポイントです。 コンディションを見る限りショップに注文をした通りの普段も不安なく使えるDSに仕上がった印象を受けました。 家族の思い入れとともに復活を見たDS、当時の設計思想を柔らかな乗り心地とともにゆったりと味わってみてはいかがでしょうか。
実車は埼玉県滑川町にあります。